猫の巣

読んだ本の感想など、気の赴くままに。

梶山季之『地面師 昭和ミステリールネサンス』

 

 

地面師: 昭和ミステリールネサンス (光文社文庫)

地面師: 昭和ミステリールネサンス (光文社文庫)

 

 放漫経営のツケが祟り、倒産寸前の苦境に陥った栄養剤メーカーのS製薬。銀行は融資を渋り、他社への吸収合併を迫って来た。社長の女婿で経理部長の滝沢は、資金調達に狂奔する中、九州に広大な不動産を有する資産家の知己を得たが…。愚昧な企業経営陣の顛末を描いた表題作を始め、伝説の“流行作家”が、ジャーナリスティックな視点で綴った傑作推理六編を収録。

 ということで今回読んだのは結城昌治『通り魔』に続く〈昭和ミステリールネサンス〉二冊目、梶山季之『地面師』です。

梶山季之、名前ぐらいは知っていたもののどういう作風でどういう作品が面白いのか、など全く知らなかったので、こういう形で復刊されるのは非常にありがたいです。

まず、読んだ感触としては全体的に文章が濃い。読みやすい文章ではあるのですが、必要な部分は細部まで書き込まれていて不必要な部分は執拗なまでに省かれている。

また、扱っている題材も当時ではセンセーショナルなものだったように思われます。

そういう点では、小説という創作物というよりは三面記事的なのかなとも思いますが。

そういう点に加え、文章の読みやすさとサスペンス性は優れているため、流行作家となったのも理解できます。

ただ、ミステリとしてみるとあまり出来が良いとは言えない作品が多い印象。

しかし、捜査の過程に関していえばどの作品も面白いのでそういう部分を楽しむのが良いと思います。

私的ベストは強いて言えば「黒い燃焼室」。

以下、各々に関して軽く感想を。

 

「地面師」

つい最近話題になったばかりの地面師を扱った作品です。(個人的には)結構複雑な内容に思われたのですが、しっかりと分かりにくい単語には説明を付けてくれるためすっきりと読むことが出来ました。また、先述の通り必要な情報と不必要な情報というのが分かりやすいため、無駄に力を入れずともちゃんとストーリーを追えます(本筋にかかわってこない人物はアルファベット一文字で省略されていたりする)。

サスペンス的なストーリー展開は非常にお決まりのパターンの為分かってしまうものの、それでも飽きさせることなく最後まで読まされる良作です。

 

「瀬戸のうず潮

宮島の旅館にやってきた新婚夫婦の奥さんが夜のうちに失踪してしまう。しかし、その一か月後彼女はそこから100キロ以上も離れた福山市で宿の浴衣を着たままの状態で発見された。なぜ彼女は宿の浴衣のまま100キロ以上も離れた場所で発見されたのか、そして犯人は誰なのか、という本格テイストな作品。

トリックは見慣れたものではあるものの伏線がしっかりとしているため読んでいて面白い。しかし犯人の行動に意味不明な箇所が複数見られる。しかも、その意味不明な行動が先述の謎の理由や犯人の計画が崩れる原因となっているため、ミステリとしては評価できない作品。

 

「遺書のある風景」

主人公は週刊誌の特集記者。彼は夕刊に載っていた10行ほどの記事に興味を覚え、詳しく調べ始めると次第に普通の事件ではないことが分かり始める、という話。導入が非常に面白く、あまり見たことのない物語の始め方だったのでその部分は非常に気に入りました。また、事件の構図も面白く、ミステリ的にも楽しめる作品です。ただ、真相が明らかになるに至る展開はおざなりな印象を拭えません。

 

怪文書

色々な自動車製品の誹謗中傷が書かれていた怪文書がいたるところでばら撒かれた。しかし、シェアナンバーワンの太陽自動車の製品《ペガサス》に関してだけ何の記述も見られなかった。他社による工作だとしてその怪文書を書いた人物の捜査を太陽自動車は始めるが……。

途中は面白い。以上。

 

「冷酷な報酬」

太陽電気でカラーテレビの研究を行っていた研究者が交通事故で死亡した。すると、そのすぐあと、彼とともにカラーテレビの研究を行っていた研究員たちが全員同時に退職を願い出る。彼らの退職の裏には何が潜んでいるのか……。

うーん。話としては確かに面白いものの、あまりにも最初と最後が直結し過ぎているためミステリ的にはイマイチ。まあしかし捜査の過程は面白いですし、話のオチも良くできているのでそこそこ楽しめる作品ではあります。

 

「黒の燃焼室」

関西のタクシー業界でシェア獲得を狙う自動車会社の話。あの手この手で相手を出し抜こうとし、出し抜かれかけ……という展開は面白い。またラストの切れ味も鋭くよくできていると思います。ただ、結構な頁を割いた割にイマイチ中盤が膨らませ切れてない印象が残りました。