猫の巣

読んだ本の感想など、気の赴くままに。

カトリーヌ・アルレー『わらの女』

 

わらの女 【新版】 (創元推理文庫)

わらの女 【新版】 (創元推理文庫)

 

 翻訳の仕事をする知的で打算的なドイツ人女性ヒルデガルデ、34歳独身。彼女が見つけた新聞の求縁広告は“莫大ナ資産アリ。ナルベクはんぶるく出身ノ未婚ノ方、家族係累ナク…”というものだった。こうしてすべてが始まった。そして彼女は億万長者の妻の座に。しかしそこには思いも寄らぬ罠が待ち受けていた。精確無比に組み立てられた完全犯罪。ミステリ史上に燦然と輝く傑作。

 

 

面白いです。東西ミステリーベスト100に1985年版にも2012年版にもランクインしてるのが十分理解できるぐらいには。

しかし、どこまでもエンターテインメント作品であり、何かしらが印象に残るとかそんなことは全くありません。

 

ストーリーは前述の通り、ドイツ人のヒルデガルデという女性が、億万長者・リッチモンドの妻になろうとたくらむが……というだけのもの。

正直現代の視点に立ってみれば、ヒルデガルデが億万長者の妻になるために取る方法はありふれ過ぎていますし、それに伴ったリッチモンドの行動もあまりにも出来過ぎていて、予定調和という感じが目に付いてしまいます。

確かに文章は読みやすいですし、ストーリーのテンポは良いのである程度は楽しめるのですが、その面白さというのが小説を読んでいる面白さというよりも二時間サスペンスを見ているようなそういう感覚に近いものです

ですから、何かしら読んだことないようなものを読みたい、という気持ちで読むには最も向いていない作品だと思います。

 

ではこの作品で個人的に思うこの作品の見どころは何かというと、どの布石がいかにして使われるのか、というパズル的な興味です。

ここに関してはよく練ってありますし、いくつもの布石を一つのものとして使うことで読者の想像よりも一つレベルの高いものをつくっています。この部分に関しては本格好きも楽しめると思います(読んでいる時の感覚が、まさに伏線回収のそれ)。

 

優れたサスペンス作品ではありますが、それは読んでいるときに楽しいということであって、読んだ後何かしらの感想をアウトプットしたくなるものということではありません。

ですから、結構低評価しているように見えますが、別に嫌いなわけでも面白くなかったわけでもありません。ただ単に、感想として特に書きたいことがないだけです。