猫の巣

読んだ本の感想など、気の赴くままに。

藤井太洋『Gene Mapper -full build-』

 

Gene Mapper -full build-

Gene Mapper -full build-

 

 拡張現実が広く社会に浸透し、フルスクラッチで遺伝子設計された蒸留作物が食卓の主役である近未来。遺伝子デザイナーの林田は、L&B社のエージェント黒川から自分が遺伝子設計した稲が遺伝子崩壊した可能性があるとの連絡を受け原因究明にあたる。ハッカーのキタムラの協力を得た林田は、黒川と共に稲の謎を追うためホーチミンを目指すが―電子書籍個人出版がたちまちベストセラーとなった話題作の増補改稿完全版。

 

拡張現実と遺伝子工学を扱ったSFです。

 

主人公は遺伝子デザイナー[gene mapper]の林田。ある日、彼が遺伝子設計した〈蒸留作物〉である稲が突然変色し始める。この稲の遺伝子情報に不審さを覚えた林田はその謎を探るべく、サルベージャーであるキタムラの協力を得るべくホーチミンへと渡るが……。

舞台設定は2036年。二十年ほど前にインターネットが崩壊し、その代替品としてトゥルーネットが使われているという設定。けれども、トゥルーネットには限られた情報しかなく、二十年以上前の情報を得るためにはインターネットを使うしかない。ここで活躍するのが崩壊したインターネットから情報をサルベージしてくるサルベージャーです。

 

まず巧いのと思ったのはSFガジェットの使い方です。

序盤から出ていたガジェットが深く本筋に関係してくるとともに、物語を盛り上げる材料となっています。

またそこに関してミステリ的手法が用いられています。

その手法というのが伏線の張り方です。

ミステリではよく使われるのですが、真相へと導く伏線とともにレッドへリングも仕込むというものです。このレッドへリングの処理の仕方としてユーモアを使います。ラストのラストでそれまで放置していたレッドへリングをただのレッドへリングではなく、ちゃんと伏線として生かすことで、ミステリ的な興味とともに物語のまとまりも良くすることが出来ます。

とまあ、それがどういう風に使われているのかというのは読んでみてほしいのですが、これがあくまでSFのステージ上で使われているというのが見どころです。

 

また終盤ではそれまでと少し違った要素を入れ込むことで読者が飽きないようにできています。

ここで、それまでに一度終わらせた事象を使うことで読者の想像よりも一歩進んだところで物語を展開していますし、またこの場面にある事柄の解決を委ねることでよりサスペンスを演出しています。

 

読み心地も非常に良く、エンターテインメント性に富んだ良作です。