ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』
- 作者: ブライアン W.オールディス,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1977/01/28
- メディア: 文庫
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大地を覆いつくす巨木の世界は、永遠に太陽に片面を向けてめぐる植物の王国と化した地球の姿だった!わがもの顔に跳梁する食肉植物ハネンボウ、トビエイ、ヒカゲワナ。人類はかつての威勢を失い、支配者たる植物のかげでほそぼそと生きのびる存在になり果てていた人類にとって救済は虚空に張り渡された蜘蛛の巣を、植物蜘蛛に運ばれて月へ昇ること。だが滅びの運命に反逆した異端児がいた……。ヒューゴ賞受賞の傑作。
前の感想から少し時間が空きました。はい。
小説自体は結構読んでいるのですが、感想をまとめる時間がないのとその気力がないのとSFばかり読んでいてアウトプットの仕方が難しいのと、まあ色々理由はあるのですが、とりあえず空き過ぎるのもあんまりなので直近で読んだ本の感想を。
人類が衰退し、植物が異常な進歩を遂げた世界を描いた遠未来SFです。
まずざっと読んだ感触として、面白さのベクトルが小説よりも絵画とか写真とかそういう視覚的なメディアのようなイメージです。
というのも、ストーリー展開自体よりもそれに伴って示される背景世界の書き込みの方が面白いからです。
ストーリー自体は強いて言えば冒険譚的な色合いが強いのですが、それ自体にはそこまでの面白さは見いだせないように思います。
その要因として大きなものは、主人公の魅力の薄さと物語の引きの弱さ。
前者はまあさほど気にならないのですが、後者はもう少し何かしらの作り込みが欲しかったように思います。
物語の引き方として有効なのは、言わずもがな伏線であったり、謎であったりなのですがそれが全くない。
ただ淡々とした冒険が描かれるだけで、そこに物語としての緩急はそれほど感じられない印象です。
また、個人的には、読みたい物語ではない方の話ばかりが描かれ、求めている話はそのままフェードアウトしていってしまった印書が強く、そこは残念でした。
純粋な小説作品としての評価は以上のような感じなのですが、この作品に限ってはこれが単なるマイナス点ではなく、プラスにも働いています。
それが前述の視覚的な面白さです。
そもそもこの作品の魅力というのは背景に広がる壮大なイメージとそのディティールす。
このイメージとストーリーを例えて言うならば絵画と額縁といった感じでしょうか。
額縁だけが無駄に派手過ぎては絵画の魅力が減退するし、また額縁が無ければそれはそれで問題。
ですから、これを強調するための枠組みとして物語が描かれるだけであって、それを作品の中枢に据えていない、という風に考えれば必ずしも物語の弱さが瑕疵にはなっていないようにも思います。
またこの作品の魅力を引き立てているのが、というか訳書においてはほぼそこに依っているようにも思いますが、訳のすばらしさです。
架空の植物の訳文上での扱い方も素晴らしいですし、純粋な文章としても巧い。
ということで、純粋なストーリーよりもSF的発想とその細部が面白い、読んで損はしない良作だと思います。