ジャック・カーリイ『百番目の男』
- 作者: ジャックカーリイ,Jack Kerley,三角和代
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/04/01
- メディア: 文庫
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連続放火殺人を解決、異常犯罪担当部署に配属された刑事カーソンには秘密があった。誰にも触れられたくない暗い秘密だ。だが連続斬首殺人が発生、事件解決のため、カーソンは過去と向き合わねばならない…。死体に刻まれた奇怪な文字に犯人が隠す歪んだ意図とは何か。若き刑事の活躍をスピーディに描くサイコ・サスペンス。
猟奇犯罪を扱った警察小説ではありますが、ホワイダニットものとして非常に有名で、殊能将之は変態本格ミステリとして評価しています。
この作品はほとんどの場合、印象的なホワイダニットものとしての語られ方をされるのですが個人的には警察小説としても面白いと思います。
あらすじに記載されている“暗い秘密”についてですが、正直なところあまり物語を引っ張る材料とはなっていませんし、おそらくこれに関しては作者自身も“謎”として扱う気はなかったのではないかと感じます(終盤での盛り上げには使われていますが)。
それよりもストーリの見どころとなるのが、主人公らが所属する《PSIT》と彼らを敵対視する警部の間で繰り広げられる署内での争いであったり、病理学者アヴァ・ダヴェネルと主人公カーソン・ライダーで繰り広げられる物語であったりです。
前者は何番煎じともわからないような使い古されたもので、既視感は拭えませんが、《PSIT》を敵対視するスクウィル警部の造形はなかなかのものですし、随所で見られるワイズクラックは雰囲気を引き立てる良いアクセントとなっています(個人的には少ししつこさを感じてしまいましたが)。
後者についてはあまり詳しく触れると未読の人の興を削ぐことになるので詳しくは触れませんが、個人的には中盤の面白さはほぼここに依るものではないかなと思います。
しかしながら、全体的にはどうしても未熟さを感じさせられます。
プロットに関しては錯綜し過ぎていますし、場面転換もあまりスムーズに行えていない印象です。
またフーダニットに関しては面白みに欠け、伏線も足りないですし、意外性の演出という点でもあまり成功していない印象です。
デビュー作ということで、やはり未熟さが見られますが、色々な要素を組み込み満足度は非常に高い作品ですので一読の価値は十分にあると思います。