猫の巣

読んだ本の感想など、気の赴くままに。

若竹七海『水上音楽堂の冒険』

 

高校卒業を目前に控えた新井冬彦は昨年の九月に起こした交通事故の後遺症と思われる記憶混乱に悩まされていた。幼馴染の中村真魚坂上静馬に心配されながらも無事大学受験を終えた冬彦だったが、そんなある日高校の水上音楽堂で殺人事件が発生する。容疑者として疑われている静馬の無実を証明するため、捜査を始める真魚と冬彦だったが……。

 

若竹七海の長編第二作ながらいまだに文庫化されていない作品です。

その理由は読んでみれば明らかで、差別用語が多用されており、またそれが本筋において非常に重要な役割を果たしているからでしょう。

 

長編第二作、連作短編集であるデビュー作を含めても三作目であるためか、やはり全体的な拙さは否めず、場面転換であったり、会話であったり、違和感を感じさせる部分が(主に序盤に)いくつか見られました。

 

内容についても序盤はやはり分かりにくく、冬彦の昨年の九月の事故による後遺症の検査云々の話は正直理解しにくいですし、いじめっ子である石橋と冬彦の会話なんかも意味不明な部分が見られます(一応説明はなされますが納得は行き難い)。

ミステリとしての見どころは密室の成立の仕方(作中で密室という表現はなされませんが広義で捉えれば充分密室)でしょう。

密室において重要になるのが冬彦の記憶で、彼は裏口に立っていたものの、記憶混乱により自分の記憶が正しいのかどうかが分からず、もしかしたら真犯人が死体を目の前で運んだかもしれない、というものです。

ただしかし、この謎に対するアプローチは密室もの的なものではないですし、またミステリ的にその謎以上の何かがあるわけでもないです。

伏線の張り方も、気概だけは感じられるものの、やはり甘さが感じられるものとなっています。

 

この作品の最も大きな見どころは“青春”要素です。

暗い青春ミステリといえば西澤保彦の『黄金色の祈り』や米澤穂信の『ボトルネック』がよく挙げられますが、時たまそれと並んで評されるのがこの作品です。

ということなのですが、やはりそんなインパクトの大きなブラックさではないように思います。個人的に感じたこの作品の一番の暗さというのは最終章で示唆されているある事実で、おそらく一般に指されているもの自体は、そこまで目新しいものではないように思います。私自身は前述の二作に関しては特に何とも感じなかった人間なのであまりあてにはなりませんが。

 

正直なところ期待値が高かったため、今一つな印象でしたがまずまずの作品であると思います。