ボストン・テラン『音もなく少女は』
- 作者: ボストンテラン,Boston Teran,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/08/04
- メディア: 文庫
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貧困家庭に生まれた耳の聴こえない娘イヴ。暴君のような父親のもとでの生活から彼女を救ったのは孤高の女フラン。だが運命は非情で…。いや、本書の美点はあらすじでは伝わらない。ここにあるのは悲しみと不運に甘んじることをよしとせぬ女たちの凛々しい姿だ。静かに、熱く、大いなる感動をもたらす傑作。
聾者の少女とその周辺の女性たちの戦いを描いた小説です。
まず、主人公は耳の聞こえない少女イヴ。彼の父親ロメインはアパートの管理人をしながら裏で麻薬の密売をしていて、また今でいうDV夫。何か気に入らないことがあれば、すぐに妻のクラリッサを焼却室に閉じ込める。
イヴとクラリッサはロメインにおびえながら暮らしていたある日、手話を解する孤高の女性フランと出会います。そして、戦いの物語が始まります。
所謂、絶望の中に光を見出す物語なのですが、大きな見どころとして絶望の描き方が上手い。
ストーリーの大まかな流れ自体は特別複雑でも、珍しくもないのですが、絶望の度合いが非常に大きいため、物語の展開ではなくてそれよりもっとも本質的な部分での、緩急が効果的についています。
つまり、一般的な作品よりも、絶望と希望の差が大きなものとして描かれているため、より印象に残るものとなっています。
また、構成に関しても色々と上手く練られていて、例えばフラン--イヴとイヴ--ミミの相似形に関してはネタバレのラインが分からないので書きにくいのですが、読者に印象を残させるためのシーンを映えさせるような演出が多くみられます。
と、面白い点は色々とあるのですが、正直なところ個人的にはあまり刺さりませんでした。
この辺に関しては自分の偏見がどうしても混ざってしまっているようで申し訳ないのですが、その大きな理由として悲劇に関する人工物的な、というかフィクション的な雰囲気です。
例えば、父親であるロメインが狡賢く立ち回ったことで害を被るのを避け、その結果イヴが害を受けるシーンにおいて。
その時に地の文において、そのイヴに降りかかった不幸の理由を耳聾としていました。
明らかにそのエピソードには直接的に関係していないにも関わらずそういう記述がなされており、そこからどうしても聾者=不幸みたいなニュアンスを暗に示しているような印象を受けました。
また、これは訳か原文かどちらが原因なのかは分からないのですが、動作主の表記がおかしな部分がいくつか見られました。
つまり、それまでは動作主として描かれていた、その章で話の中心として描かれている人物が突然、目的語に変わっている部分が見られたということです。
ここは結構重要な部分で、受動態か能動態かの違いだけでそのシーンの意味合いがまるっきり変わってくるので違和感が残りました。
全体的に地の文の役割が良くわからず、正直なところ、フィクション色合いが大きいように感じストーリーとの乖離を感じました。
個人的にはあまりピンとこなかったのですが、世評も高い作品ですしまた再読してみたいと思います。