ロバート・L・フィッシュ『懐かしい殺人』
英国ミステリ作家クラブの創立者である三人の老作家の経済状況は、まさに逼迫していた。原稿の依頼もなく、ただ世に容れられぬ身の不遇を嘆くだけ……そこで協議の結果考えだされたのが殺人請負業《殺人同盟》の結成だった。彼らの本領である伝統的な殺しのテクニックを駆使し、商売はそこそこ順風満帆だった。しかし、ついに彼らは失敗を犯してしまった!困り果てた老紳士たちは弁護士パーシヴァル卿に相談を持ち掛けたのだが……。多才な著者が、その名人芸をいかんなく発揮した、ウィットとユーモアに溢れる傑作。
もうとにかく読んでいて楽しかった。
原稿依頼もなく、作品も書かなくなってしまった年寄りの推理作家三人が金儲けのためにそれまでの経験を生かして殺し屋を始めるという導入から始まります。
ここからしてもう楽しいですし、ミステリ好きならば必ずわくわくさせられてしまいます。
そしてその殺し屋稼業の話が描かれるのですが、これがまた面白い。
今ではもちろん古びたものではありますが、毎回繰り出されるトリックはいかにも“古典”という感じの趣のあるもので、ミステリをまだ読み始めて間もない頃、古典ミステリを読んでいたあの頃の感覚がなんとなくよみがえってきました。
また、その殺害方法のディスカッションもユーモアに富んでいて面白い。
そして後半は前半とは打って変わって法廷ミステリとなります。
順調にこなしていた仕事がある日ひょんなことから問題が発生し、どうしても法廷へと赴かなければならなくなります。
この辺の展開はバークリーを彷彿とさせるブラックさで、また登場人物の倫理観のねじ曲がり方も相俟って非常にシニカルさに満ちています。
また、この法廷ミステリとしても非常に巧くできており、証拠のつなげ方や弁護士の弁論の仕方は本格ファンも十分に楽しめるものだと思います。
この作品、連作短編集のような構成ではなく、敢えて長編という形をとっています。この構成は一見歪に思われるのですが、ちゃんとそこにも理由があり、あまりにも真っ黒な展開は笑ってしまいます。
人物造形やユーモアのみならず、ミステリ的な展開やガジェット、技巧も非常に面白い最高のエンターテインメント作品です。